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【報告】第18回種生物学会片岡奨励賞 選考報告

お知らせ 2024年10月09日

18回 種生物学会片岡奨励賞 選考報告

 

2024109

 

 選考委員会は,推薦のあった候補者の研究業績および種生物学会での活動について,慎重に調査・審査し,最終選考会議を108日に行いました。その結果,選考委員の全員一致で,以下の1名に片岡奨励賞を授与することを決定いたしました。なお授賞式と受賞講演は,127日(土)の種生物学シンポジウム会場にて行います。

 

田川 一希(鳴門教育大学)

 

片岡奨励賞選考委員: 川北 篤(委員長)・富松 裕・本庄 三恵・山尾 僚

 

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田川 一希氏の受賞理由

 田川一希氏は,フィールドでの観察と実験を主な手法として,食虫植物の自然史や進化に関する独創的な研究を行ってきました。例えば,田川氏はモウセンゴケ属が接触刺激に応答して花を閉鎖する現象を発見し,その適応的意義を明らかにしました。モウセンゴケ属のトウカイコモウセンゴケは、花周辺に接触刺激を受けると2-10分ほどで花を閉鎖します(Tagawa et al. 2018)。オジギソウにように接触刺激に応じて葉を動かす種は古くから知られていましたが、花を動かす種は世界で初めての発見でした。また,田川氏は花閉鎖反応がスペシャリスト植食者であるモウセンゴケトリバに対する防御として機能するという仮説を立て,行動実験を通して検証しました。その結果,トウカイコモウセンゴケはモウセンゴケトリバの食害を受けると通常の9倍の速度で花を閉鎖すること,花閉鎖はモウセンゴケトリバの花内部への侵入を防ぎ,胚珠の食害率を低下させることを示しました(Tagawa et al. 2022)。現在は,モウセンゴケ属の種間で花閉鎖反応に変異が見られることを利用し,素早い花閉鎖運動の進化的要因を明らかにする研究を進めています。

  さらに,田川氏は日本固有種であるアカバナナガバノイシモチソウとシロバナナガバノイシモチソウを材料に,これらの食虫植物が周囲で開花する他の植物の花に誘引された送粉者を捕獲することや(Tagawa et al. 2018),シロバナナガバノイシモチソウが高密度の集団でより大型の餌昆虫を捕獲できること(Tagawa & Watanabe 2021),送粉者であるヒラタアブ類が捕虫葉の危険性を感知し着地を避けること(Tagawa et al. 2018),タイの近縁種との餌昆虫の組成の比較から日本のアカバナナガバノイシモチソウとシロバナナガバノイシモチソウが温帯適応として多くの昆虫を捕獲するよう進化した可能性(Tagawa et al. 2023)などを示し,これらの植物の種生物学的特徴の解明に貢献しました。 

 加えて,非食虫植物であるセイヨウヒキヨモギが粘液でハダニ類を捕獲し,その結果としてハダニ類の局所密度が低下し,周辺の植物の食害率が低下するという,粘液を分泌する植物による連合抵抗性の可能性を示されました(Tagawa & Watanabe 2021)。

  これらの業績の中には,Plant Species Biologyに出版された4編の筆頭著者論文が含まれます。また,田川氏は種生物学シンポジウムでも積極的に発表を行っており,2023年度のシンポジウムではプレシンポジウムで講演されました。大学教員としても,種生物学的知見を題材とした理科教育やアウトリーチ活動を積極的に行っています。

  以上の研究業績,および種生物学会での活動は片岡奨励賞の受賞にふさわしいものです。田川氏の活躍は,種生物学を志す若手研究者を大きく鼓舞するものであり,今後のさらなる活躍が期待されます。