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【報告】第11回 種生物学会片岡奨励賞 選考結果
新着情報 2017年11月09日
第11回 種生物学会片岡奨励賞 選考報告
2017年11月 8日
選考委員会は,推薦のあった候補者の研究業績および種生物学会での活動について,慎重に調査審査し,最終選考会議を10月31日に行いました。その結果,選考委員の全員一致で,以下の1名に片岡奨励賞を授与することを決定いたしました。なお授賞式と受賞講演は,12月 2日(土)の種生物学シンポジウム会場にて行います。
渡邊謙太(国立沖縄工業高等専門学校)
片岡奨励賞選考委員: 井鷺裕司・川北 篤・西脇亜也(委員長)・吉岡俊人
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渡邊謙太氏の受賞理由
渡邊謙太氏は、これまで島に生育する木本植物の性表現と繁殖システム、及びその進化の解明に向けた研究に取り組んできた。特に被子植物で最大の分類群の一つ、アカネ科ボチョウジ属植物をメインの対象とし、二型花柱性から始まる性表現の多様化を研究して、日本・台湾産全6種の性表現と送粉様式を明らかにした。一般に海洋島では異型花柱性が極めて稀であるとされていたが、小笠原諸島から初めてオガサワラボチョウジとオオシラタマカズラの2種が、また台湾の離島で海洋島の蘭嶼島からはコウトウボチョウジが形態的・機能的に二型花柱性を維持していることを明らかにした。さらにオガサワラボチョウジについては、人間による撹乱が原因で送粉昆虫相が崩壊したために、片方向への送粉が生じている可能性を示し、送粉昆虫相が不安定であるために海洋島で異型花柱性が稀である可能性を指摘した。一方、大陸島である琉球列島からは、シラタマカズラの二型花柱性、ボチョウジの二型花柱性から雌雄異株への進化、ナガミボチョウジの雌雄異花同株を含む雑居性を明らかにした。
これらの結果を受けて、島における二型花柱性の維持と崩壊についての総説論文を発表した。さらにハワイ大学に在外研究員として滞在した2015年9月からの1年間には、ハワイ諸島のボチョウジ属の雌雄異株性の進化を研究し、これまでの定説と異なり、二型花柱性が一旦単型へ崩壊してから雌雄異株に進化したことを示唆する結果を得た。
ボチョウジ属以外でも首都大学東京の菅原敬氏や常木静河氏らと共同して島の様々な木本性植物の性的二型を調査してきた。小笠原諸島からは、ムニンアオガンピの雌雄異株性や、ムニンネズミモチの性的二型性、琉球列島からはハナガサノキの雌雄異株性、ハテルマギリやミズガンピの二型花柱性についての研究を行った。
こうした一連の研究は、島における植物の性表現と繁殖様式の進化について多くの新知見をもたらした。特に島の二型花柱性植物を対象に研究することが、より一般的に二型花柱性から始まる性表現多様化の理解に繋がることが示された。こうした点で種生物学の発展に貢献してきたといえる。なお、ボチョウジ属に関する研究論文のうち2編はPlant Species Biology誌から出版されている。
一方、渡邊氏は保全に関する調査・研究も精力的に行っており、小笠原諸島において、外来種であるクマネズミやガジュマルが在来植物に与える影響や、希少種の更新状況等を調査し、地元の人々にも読まれやすい日本語の論文として発表してきた。
渡邊氏は、これらの研究を高等専門学校の技術職員としての業務の傍ら地道に続けてきた。その中で研究内容を活かし、学生への教育を実践してきた他、「名護の自然を探検しよう」を始め、地域市民を対象にした環境教育のイベントを数多く企画・実施してきた。
さらに渡邊氏は沖縄島大浦湾に生息する海洋生物の潜水調査・記録、及びそれらの展示や冊子等による普及啓蒙活動をダイビングチーム(すなっくスナフキン)の一員として続けてきた。特に高専の短期留学生向けに制作した二ヶ国語の環境教育冊子の製作では主導的な役割を果たした。また2013年に生態学会から提出された要望書を起案する等、海域生態系の保全でも重要な役割を果たしている。
現在は、琉球・ハワイ・グアム等の島々の木本植物の性表現に関する研究に加え、様々な国際研究プロジェクトを精力的に進めており、今後ますますの研究の発展と種生物学会への貢献が期待される。加えて、今回の受賞により、高専の技術職員という立場でも地道に研究を続けることにより研究成果につなげられることを示すことで、若手研究者に対する大きな波及効果が期待される。