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【連絡】第4回 種生物学会片岡奨励賞 選考結果

新着情報 2010年10月14日

 片岡奨励賞選考委員会は,推薦のあった候補者の研究業績および種生物学会での活動について慎重に調査審査し,最終選考会議を9月27日に京都大学でおこないました。その結果,選考委員の全員一致で,片岡奨励賞を下記の2 名に授与することを決定いたしました(五十音順)。 なお授賞式は,12月11日(土)の種生物学会2010年度総会にて行います。

      ・ 石濱 史子 (国立環境研究所)
      ・ 森長 真一 (東京大学)

【受賞理由】

石濱史子 氏 (国立環境研究所)
 石濱氏の研究は,植物野外集団の実測データを用いて,個体群動態や繁殖生態学的な数理モデルを構築し,また保全生物学的な予測評価も対象としている。その研究姿勢は,一貫して植物野外集団の空間構造とそのスケールが,植物集団の絶滅リスクにどのように関係するのかを明らかにするものである。河川に生育するカワラノギクのリスク評価においては,メタ個体群,地域個体群,局所個体群の3階層性の個体群動態について格子数理モデルを構築し,その存続特性を明らかにした。そして,モデルを駆使して,従来の研究手法では予測困難だった個体群の存続可能性とそれに影響を与える要因の評価に成功している。また,数理解析結果に基づくサクラソウ保全事業への具体的・実践的指針呈示など,データを破壊的に収集することが困難である希少植物個体群の保全に,野生集団の空間構造の数理解析的研究成果を積極的に取り入れた姿勢は高く評価できる。種生物学会では,和文誌編集委員をはじめ,監査や地区幹事も務め,和文誌「外来生物の生態学」を責任編集者の一人としてまとめ,活発な学会活動を展開し,自らの研究分野のみにとらわれることなく,広く種生物学分野全体の発展にも尽くしている。

森長真一 氏 (東京大学)
 森長氏は,一貫して野生植物における適応進化を遺伝子レベルから探る研究を行ってきた。氏はゲノミクス・分子遺伝学の手法を生態学にいち早く取り入れ,この分野をリードしてきた。コカイタネツケバナにおける研究では,マイクロアレイを用いて閉鎖花における網羅的な発現解析を行い,閉鎖花形成の遺伝的背景・発生メカニズムを世界で初めて本格的に考察した。さらに閉鎖花において,発現量の増す遺伝子が多くあることを発見し,「閉鎖花は自殖用のコストの小さい花」という従来の認識に疑問を投げかけた。また,植物の高地適応の研究にも取り組み,ハクサンハタザオの高山型「イブキハタザオ」をモデル系に,高地への適応を担ったゲノム変異の研究を進めた。その結果,高地と低地で遺伝的分化はごくわずかであること,高地への適応進化を担った変異の多くは低地の祖先集団にも分離していることなどを発見した。氏は2005年,2008年にエコゲノミクスに関連するテーマで種生物学会シンポジウムの企画し,日本におけるエコゲノミクス分野の普及に大きく貢献した。種生物学和文誌「オミクス時代の生態学(仮)」では,責任編集者の一人として活躍している。

種生物学会 片岡奨励賞選考委員会 
井鷺裕司・川窪伸光(委員長)・西脇亜也・吉岡俊人